駄文館 展示室1A

拡大教科書に思う

 

 これは、拡大教科書の無償供与についてさかんに議論されていた2004年3月に書いた文章です。現在は社会人であるなど、執筆当時と状況が異なることを認識した上でお読みください。

 

私は右目がほとんど見えない、左目の視力が0,08の弱視とよばれる障害の持ち主である。私はこの障害をもちながら、小中高と普通学校に通ってきた。現在は大学に進学し、多くの仲間に囲まれ幸せで有意義な大学生活を送っている。ここで私は弱視という障害を持ちながら普通学校に通っている子どもたちの先輩として、先ごろ話題になっている拡大教科書について一言述べさせていただきたい。


 拡大教科書とは、一般に子どもたちに配られる教科書の文字を弱視児個々の求める大きさに拡大コピーして作った教科書のことである。著作権法改正で作者の許可を得ずに作れるようになったほか、文部科学省が無償供与の道を開くなど導入に向けた動きが着実に広がっている。また拡大教科書が導入されるにあたって、拡大写本ボランティアの御尽力も忘れてはならないであろう。

 
 だが実際に普通学校で拡大教科書が使われるようになると、混乱も予想される。
 話が変わるが、弱視児がよく学校で使う補助具の1つに単眼鏡というものがある。単眼鏡とはその名のとおり双眼鏡のレンズが1つになったもので黒板など遠くのものを見るときに便利である。だがその便利なはずの単眼鏡が、普通学校で使われないケースも多いと聞く。弱視児本人がほかの児童生徒と違うものを使っていることを嫌って、使わないというケースはよく耳にする。また、周囲の児童生徒に単眼鏡を使っていることをからかわれたり単眼鏡にいたずらをされたりすることで使用をやめてしまったりするケースもある。
 拡大教科書についてもそうしたことで、使用をやめてしまうケースがあるのではないだろうか。まず弱視児の周囲にいる大人たちは拡大教科書を持たせることをきっかけに弱視児に対し弱視という目が見えにくい障害を抱えていること、障害があることや拡大教科書を使用することは恥ずかしいことではないことをはっきり伝えていく必要があるだろう。

また、弱視児が在籍するクラスではほかの児童生徒に対し必要に応じて弱視という障害をもつ児童が在籍していることを伝える必要があるだろう。本論から外れるが、その時にあわせて弱視という障害をもつ彼(彼女)にはできないこと、苦手なことがある一方で得意なこと、いいところがあること、得意なこと、苦手なことは障害の有無に関わらずみな持ち合わせていることを伝えることができれば、クラスメイト全員が打ち解ける1つのきっかけになるかもしれない。また子どもたちが拡大教科書の使用を嫌がったらどうするかということも、周囲は考えておく必要があるだろう。そのような場合決して頭ごなしに怒ったりせず、「どうして使いたくなったのか、話せるようになったら教えてね。」と子どもに語りかけるくらいの余裕があればいいと思う。弱視児をもつ親御さんは子どもたちの学校生活に不安になったり戸惑ったりすることもあると思うが、そういったときは1人で抱え込まずに弱視児をもつ親の会や当事者団体に相談してほしい。そうすることでよいアドバイスがもらえたり、そうして悩んでいるのは自分たちだけではないと不安が和らいだりするのではないだろうか。

 
 拡大教科書の本格的な導入は、弱視児にとってより快適な教育環境をつくるという意味において「ゴール」ではない。だが弱視に対する関心が高まり、弱視児にとってより快適な教育環境をつくるためのよいきっかけになるであろう。そのためにもまず、スムーズに拡大教科書が普通学校に入っていくことを願わずにはいられない。

 

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